暑い8月のある日、試験会場となっていた京王ホテルへ。スイートルームの一室で試験は行われるとのこと。ただし、今回は日本語の履歴書も持ってくるようにという指示がありました。私はその頃他の企業に内定が決まっていたため、「C社の面接あるけどどうしよう。どうせ受からないだろうし行かなくてもいいかな。」などと考えており、家を出る直前まで行こうかどうしようか迷っていました。「でもやっぱりせっかくだから行ってみよう」と家を出たのはいいけれど、志望理由欄が空白のまま...。ホテルのロビーで「旅や留学で身に付けた物事に臨機応変に対処する点を生かして、さまざまな文化、バックグランドを持った人と接する仕事がしたい。」というような内容を即席で書き上げエレベータに乗り会場のスイートルームへ向かいました。
日本人チーフパーサー(後から聞いた話によると香港でも3本の指に入るリッチな男性と結婚しているらしい)の試験官に日本語の履歴書を渡し、大学で勉強をしている内容などを説明。「音声学を勉強している」と伝えると、「あなたの話し方を音声学の見地から分析するとどうかしら?」という質問を受ける。「唇を横に引いて話すくせがあるため、母音が平板化しています」とかどこが音声学なんだか分からないような答えをすると、「そうね、確かに横に引いてしまっているからちょっと幼く聞こえるのよね」と指摘されました。
「では、○○ちゃん(私のファーストネーム)、このアナウンスを読んでください。」手渡された紙には機内アナウンスの原稿が。もともとアルバイトで人前で話す必要のある仕事をしたことがあったため、なんとか読み上げました。「アナウンスはまあまあね。」その言葉の後は外国人スタッフとの面接のため、しばしソファで他の応募者と一緒に待ちました。それまでの試験でうじゃうじゃいた「モデル」や「ミスコン」系の人がほとんどいなくなっていて、「ほのぼの」系の人ばかりで意外でした。私のような現役の学生もいたけれど、社会人も結構いて、「仮病を使って会社を抜けてきちゃいました」なんて人もいて、普段の就職活動と応募者の面々が異なっていて新鮮でした。とても気さくで話しやすい人が集まっているな、という印象でした。
インタビューはイギリス人女性一人、フィリピン人1人、香港人1人、シンガポール人1人との4対1で行われました。「Hello!」と元気よく部屋に入ると、そのうちの一人のインタビュアーが「そのスーツ、とてもよく似合ってるわね。この試験はこれまでの試験と同様に今回の試験も簡単だからリラックスして。」と言われる。そうは言われても「ちょっと緊張してます。」というと「大丈夫。」と声をかけられました。
インタビューでは主に大学での勉強や生活などについて聞かれ、志望理由は一切聞かれませんでした。
まず「大学ではポルトガル語を勉強しています。」というと「珍しいわね。どうして?」と聞かれました。
その他、アルバイトで歌舞伎や文楽を上演している会場で働いていたので目上の方への接し方を学んだり、直接「NO」といわずにいかにお客様に「NO」と言うことを理解させるか、と言ったことを実践してきたという話をしました。
また、「ご家族があなたのことをどんな人?と言う質問をされたらあなたはどういう風に語られると思いますか?」という質問もあり、これには「前向きで、好奇心が旺盛で」などと自分のことなのにかなり肯定的なことばかり言ってしまいました。やはり相手は外国人だし、マイアミから帰って間もなかったためアメリカ式のずうずうしい考え方が結構身についていたのかも知れません。徹底的に「その人となり」を聞かれる面接だったと思います。
面接時間は20分ほど。時おり笑いも入りながらのリラックスムードで終わりました。その頃ちょっと気分がダウン気味な私でしたが、なぜかC社の面接に行くと楽しくて明るい気分になれるのが不思議でした。
実際にC社で働いて、また今から振り返ってみてもあの面接のポイントは以下の3つだったのではないかと思います。
1.第一印象がよいかどうか
2.協調性・柔軟性はあるか
3.たくましいかどうか
1は接客業なので他人に好印象を残すことができるのは最低条件。2は、クルーという仕事上チームワークが重要なため、「ワタシが、ワタシが」という人間よりは周りを見てそれに自分をフィットさせることができる協調性やその場にあわせて臨機応変に対応できる柔軟性が重要だから。(実際、フライト前のブリーフィングではしつこいくらい毎回のように「チームワークがとても大切」と言われたものです)3は日本と違って気が抜けない「香港で暮らす」ということとチャイニーズや東南アジアのたくましい人々と渡り合う上では必要だから。
しばらくソファで待っていると、さっきのチーフに名前を呼ばれ紙を手渡されました。「次は健康診断に来てくださいね。12月を予定していますけれど、詳しい日時は後でお知らせします」と言われました。ということはこの審査にもパスしたということだった。スチュワーデス試験についてほとんど知らなかった私は「そうか、あの面接官が言っていた通りここの会社の採用試験は簡単なんだ」と思い、実際に入社前のブリーフィングを受けるまでC社の試験にはほとんどの人が受かるものだ、鵜呑みにしていました。